EP.2衝撃の事実〜未知の車、プライスレス〜
翌日、1本の電話が鳴った。
『あー、まえのくんか?ちょうど車、入庫しておいたからいつでも店きぃや〜』
これが車屋さんとの2本目の電話である。
念のために言っておく。
これが2本目の電話である。
まるでお正月に親戚が『久しぶりやねぇ〜はい、お年玉だよ。』
と続きそうな電話の口調だ。いや、違うか。違うな。
そんなことは頭の片隅に置いて早々に身支度をして阪神電車に飛び乗った。
この日の電車はいつもより混んでいた。何よりも自らのワクワクを抑えきれずにいる自分がいたので逆に人がいてくれた方が爆発しなくて済んだ。
阪神電車様様である。
『尼崎〜尼崎〜』
お目当の駅に着いた。平日の午前中だったので会社員の人が目まぐるしく電車を行き来している光景に吐き気を催しながらもここから徒歩10分ぐらいである車屋さんに向かった。
そうしているとお目当の車屋さんに着いた。
目の前のは〇〇モータースの看板が。カーセンサーで見た看板と同じだ。もうこの時点ではドキドキはマックスに達していた。
時間の瞬間体感速度は100km/hである。大災害だ。
車屋さんに着き、一番に目に着いたのはお目当の車である。
言わずもがな、茶色のボディはピカピカに磨かれていて素人目から見ても輝いていた。
古い車なので洗練されたボディとまではいかないが古臭さを感じさせつつも見るものを新鮮な気持ちにさせてくれるいい車であることは確かだった。
『おぉ!ヨォ来てくれたな!この車やで!実はこの車、型式も結構古い27年落ちでエアコンは壊れてる車やけどしっかりエンジンもかかってくれる、今時珍しい車やからまえのくんほんまにヨォ〜見つけたなぁ〜!』
そこには無精髭を生やした、いかにも尼崎を思わせるようなイカツイ顔面のおじさんが立っていた。
この時のおじさんはかなり上機嫌である。
今思うとこのおじさんに乗せられてしまい、購入しようと思ってしまっていたことがもうすでに致命的だったのかもしれない。
そんなこんなでおじさんと話しながら〇〇モータースの階段を駆け上がって事務所の扉を開けた。
そこには1台の机が置いてあり、上には契約書などが置かれていた。どうやら念のための車の契約書らしい。どうやら当日に一目惚れで買ってしまう人もいるのだとか。
『それで、早速やけどねぇ〜この車の値段は、、、』
『85万円やねぇ』
固まった。今このおじさんはなんて言った?というよりも数分前はなんて言っていた?
27年落ちと言っていなかったか?それにエアコンも壊れているのではなかっただろうか?
車に関しては全くと言っていいほど無知なのだが、素人目から見てもこれだけは言える。
べらぼうに高すぎる。
そして、現実に値段を打ち付けられどぎまぎしているとおっちゃんがこう言い放った。
『この年代でこの値段はまぁ妥当なくらいだと思うわぁ〜』
納得してしまった。
というか納得せざるを得なかった。カーセンサーで他の同じ車種の車を見ていると同じような値段だったからだ。
むしろこの車で成功さえすれば元は取れるのではないか?
もう思考が止まらなかった。
次の日には母に話をして分かってもらった。
絶対にこの車で成功させてやる。この車でないとダメなんだと説得させた。
そして母から見事車輌代を借りた。その時のお金の重さと言ったら半端じゃない。
これだけは絶対に返さないといけない。むしろこれをもとに頑張らなければならない。
これらを心に刻み込んだ。
しかし、ここではっきりさせておかなければならないことがある。
それは、、、
まだカーセンサーを見て一発目のところであるということ。
未知ゆえの行動だった。ここまで猪突猛進だと逆に潔すぎるものだ。
ここでの反省点は明らかに一つ。
『買い物をする際は他社と比較する。もちろんそれは小さい、大きいに限らず。』
さて、話を戻す。
車輌をあっさりと購入したあと、おじさんはすごく上機嫌そうに『これからもずっとお付き合いやからね。車ってのは車両だけのやり取りじゃなくて人とのやり取りも重要やから切っても切り離せないからね』
いいことを言う。このおじさんは本当にいいことを言う。
このおじさんとは長い付き合いができそうだ。この車輌を購入すると言うよりもこの〇〇モータースとお付き合いしたいがために購入するようなもんだ。
そう思えば安いものだ。
だがしかし、その時の自分は知りもしなかった。
暴力事件で、会社が倒産してしまうことを。
次回『警察沙汰!?〜途絶えた連絡の行方〜』